池波正太郎というと、『鬼平犯科帳』『剣客商売』といった時代小説のシリーズで有名である。同時に、食にまつわるエッセイも多い。『東京のうまいもの―散歩のとき何か食べたくなって』(コロナ・ブックス)の中に出てくるお店を歩いてみようと思っている。
しかし、池波正太郎が亡くなったのは今から20年前である。ここに掲載されているお店も閉店してしまったところが多い。今も残るお店を渋谷あたりでさがしてみた。まず最初は「ムルギー」本書から引用させていただこう。
朝、役所を自転車で出て、滞納税金をあつめてまわる。昼になるとそのまま自転車で渋谷へ出て昼食をする。これが毎日のたのしみだった。 東急デパートの食堂や、百軒店(ひゃっけんだな)のカレーの店[ムルギー]や、その前の[アラスカ]の出店などへ、よく出かけた。 目黒税務署に勤務しながら執筆活動をしていた池波正太郎が、作家だけで一本立ちしたのは昭和30年のことである。だからここに書かれている話は昭和20年代のことだろう。百軒店は今もある。
109の前を通り過ぎ、道玄坂をのぼると、「しぶや百軒店」というゲートがある。この坂をのぼったところを左に曲がると、「ムルギー」が見えてくる。ドアの上にには、「昭和26年創業」と書かれている。僕は友人の北尾トロに連れてきてもらったのが最初だったと思う。「ここは、椎名誠のエッセイで有名なんだよ」と北尾トロが教えてくれたのを覚えている。
DSCF87801980年代のことだったろうか。ただ、来たのは初めてだが、出てきたカレーを食べるうちにこのカレーは知っていると思った。誰かのエッセイで読んだことがあった。しかし、それは椎名誠でも池波正太郎でもなかった。それだけ多くの人が書いているということだろう。最近では大槻ケンヂのエッセイで有名なのだそうだ。
僕はといえば、思い出したようにこの店にくる。最初に行った1980年代はおじいさんがカレーを運んできてくれた。それから、お婆さんになって、しばらくお店が開いていないこともあったが、最近は若い女性がカレーを運んでくれる。
メニューを見るといちば上に☆マークがつけられ、
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玉子入りムルギー(当店おすすめ) ¥1050
となっている。前からずっとこれがお勧めだったと思う。というわけで、これにする。お昼時で店にはどんどん客が入り、ほぼ満席。
しばし、待てば、やってきましたムルギーのカレー。ご飯が山脈のように高く盛られているルックスは昔から同じだ。今は、本格的なインド料理店はいくつもあるから、こういったスパイスたっぷりのカレーもさほど驚かないけれど、創業当時の昭和26年では、画期的だったかもしれない。

ムルギー
ジャンル:インドカレー
アクセス:東京メトロ半蔵門線渋谷駅1番口 徒歩3分
住所:〒150-0043 東京都渋谷区道玄坂2-19-2(地図
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情報掲載日:2014年5月16日


そして、もう一軒ある。

DSCF8824渋谷にはもう一店舗ある。「長崎」というお店だ。先ほど引用した部分の続きはこうなっている。

渋谷の金王(こんのう)八幡前のマンションの一階にある長崎料理の[長崎]を見つけたのも、そのころだったか……或いは、私が役所を辞めたのちのことだったかも知れない。

 

さきほどの「ムルギー」以上に池波正太郎はこの「長崎」について語ってい

る。もう少し引用しよう。

別に愛想もない小さな店だが、いまはしっかりと常客がついている。

(中略)麺をラードで焼いて鶏のスープへ浸けたものへ、具をかけかけまわした[皿饂飩(さらうどん)]はそれこそ毎日食べても飽きぬ。

 

 
DSCN6077かなりの惚れ込みようだ。というわけで、渋谷駅まで戻り、陸橋にのぼり、渡って、渋谷警察署の前でおりる。明治通りだ。 ここから並木橋の交差点まで歩く。山王坂をのぼっていくと、金王八幡がある。そして、記述通り、マンションの一階に「長崎」はある。皿うどんには細麺と太麺があった。細麺をいただく。これが実に旨かった。 
追記:残念ながら、こちらのお店は閉店してしまった。